脳のネットワーク

 瞑想(メディテーション)をメンタルトレーニングとして位置付けた際に、瞑想がいったい脳の中の何を対象としてトレーニングしているのか? について考えてみたいと思います。

 フィットネスジムなどで行う身体(フィジカル)トレーニングの場面では、訓練のターゲットを明確に設定してプログラムは組まれます。「心肺機能」であるとか、特定の筋肉、筋群(例:大胸筋、体幹筋など)など訓練目的に応じてトレーニング対象を明確にした上で実施されます。

 では、メンタルトレーニングの場面ではどうでしょうか。身体機能のように、訓練の対象を明確にすることができるのでしょうか?

 後程、瞑想(メディテーション)の種類を紹介しますが( クリック >> 「瞑想の種類」 )、これらの違いは訓練する脳の機能(はたらき)が異なることに由来すると考えらえています。その違いを理解するキーワードが「脳のネットワーク」です。

 脳には様々な機能を支える神経ネットワークシステムが存在します。主要なものを以下にお示します。

「ネットワーク」という言葉が表すように、単一の脳領域によって担われている機能ではなく、複数の脳領域が協同して果たす役割といえます。瞑想(メディテーション)の違いを理解するために大事なポイントとなりますので、それぞれのネットワークの機能を簡単に説明しておきます。

 「A. 顕著性ネットワーク(SN)」は、身体内・外の刺激に対して、その生物学的および状況における重要性を評価し、「B.デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と「C.実行機能ネットワーク(CEN)」のいずれを働かせるのか、この切り替えを担当していると考えられています。

 「 B.デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」は、「自己関連付け」に関わるネットワークと言われています。「自己関連付け」という表現は難しく聞こえるとおもいますが、内的思考過程、つまり自分が過去にしたことを思い出したり、未来のことを夢想したり、将来のことを考えたりと、どちらかと言いますとボーっとしているとき、注意散漫になっているときに活動するネットワークです。

 私たちの心は、自由にさせると大部分の時間、「自分についての物語」に囚われ始めます。「私の」未来、 「私の」 過去、 「私の」 成功、 「私の」 失敗などの「私の」物語に心はさまよい始めます。 「 B.デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」は 、この「こころの迷走(mind wandering)」に関連するネットワークと言われています。

 「B.デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」 は、 過去を修正して未来むけた準備をする場面や 独創的なアイディアを育む精神活動には不可欠ですが、脳のエネルギー消費の多くを(60-80%)このデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の活動が占めていると言われています。過度に働かせることは、心的な疲労を増長させると考えられています。 

 「C.実行機能ネットワーク(CEN)」は、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークとも呼ばれます。このネットワークは、合目的な行動に必要な認知情報処理に関わるネットワークで、私たちの注意機能(アテンション)をコントロールしているシステムです。身体の内外の状況を正確にとらえる(認知する)には不可欠な働きをしています。実行機能ネットワーク(CEN)とデフォルト・モード・ネットワーク(DMN) とは、拮抗的(逆の)な活動パターンを示すことが多く、そのいずれかを状況に応じて働かせるかを切り替えているのが、 顕著性ネットワーク(SN)ということになりす。

 瞑想(メディテーション)のお話しに戻しましょう。瞑想が何を訓練しているのか? ズバリこの答えは、個々の方のニーズや生活の場面に応じて適切に切り替えることができるよう、上記の主要なネットワークをターゲットに自己調整( self-regulation )する力をトレーングする技術群です。どのようなネットワークをターゲットにするか、すべきかは一人一人異なります。

 脳には「可塑性(かそせい)」という特徴があり、トレーニングに応じてその機能を変化させる性質があります。この可塑性を応用したメンタルトレーニングが 瞑想(メディテーション) です。

■ それでは次に…

 これらの脳のネットワークを訓練する瞑想によって、身体的、精神的にどのような効果があることが認識されているのでしょうか。

 公的な機関が報告している瞑想の効能について、お話をさせていただきます(クリック >> 「瞑想の効能」)

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